田中 恒男(バス)
私は昔、学生時代にドイツリート詩集の講義を受け、この時のテキストだけはずっと持ち続けていました。そしてGoethe(ゲーテ), Heine(ハイネ), Mörike(メーリケ)らのいくつかの詩とともに、Schiller(シラー)の“An die Freude”の詩を時に暗誦していました。そこで1989年、Bernstein(バーンスタイン)による東西ドイツの統一記念の「第九」の演奏を耳にした際には、それよりおよそ170年も前にBeethovenとSchillerが書いた、「第九」と、その「歓喜に寄せて」の詩が、現代の人々が求めてきた”喜び”(Freude durch Leiden:苦悩を超えた喜び)に余りにも見事にマッチしていることに驚き、芸術が持つ時空を超えた普遍性に心の底から感動しました。
そうした原体験があったので、いま在籍中の放送大学で、5年前に「第九」の合唱団員募集があったとき、既に70代目前だった私には無理とは思いましたが、最後のチャンスと考えて恥を忍んでこれに応募しました。遅すぎる合唱デビューでしたが、その後「第九」には、放送大学で3回(藝大奏楽堂、NHKホール、美浜文化ホール)、幕張フィルと1回(千葉県文化会館)の計4回出演しました。
「第九」をきっかけにして、その後、放送大学の合唱サークルと歌曲の個人レッスンを受講し始め、モーツァルト記念合唱団、べートーヴェン記念合唱団にも参加させていただくようになりました。今でも歌が下手で苦労の連続ですが、最近は無謀にも古典の宗教曲から日本の合唱曲、ルネサンスの世俗曲、イタリア歌曲、日本歌曲など、幅広いジャンルの曲にチャレンジするようになりました。家内や近所に迷惑をかけているに違いありませんが、大声で歌うことは今では私の日常の一部になっています。
コロナ禍のもとで、「第九」やモーツァルトの「Requiem:レクイエム 」の練習ができなくなっているのは痛恨の極みですが、この中で私が新しくやり始めたのが、ラテン語とZoomによるイタリア歌曲の個人レッスンの受講です。どちらも長期の課題になりそうですが、ここでは後者についてだけ触れておきたいと思います。
Zoomにはタイムラグが付きものなので、これをコーラスの練習に使うのは全く不向きだと思います。しかしこの個人レッスンは、前もって先生方に楽譜を送り、調性やテンポを確認した上で、ピアニストに演奏してもらった録音データを自分の手元で再生し、その伴奏にのせて私が歌うのを、Zoomを通して先生に指導してもらうやり方です。音質はやや悪いですが、タイムラグが殆どなくレッスンに集中できるのと、先生と自分のレッスンの状況が自動的に録画されるので、後日、細部まで何回でも復習することができて、見方によっては教室でのレッスン以上に効果的な気がしています。同様に、クラスメートのレッスンの様子を仔細に見られるのも、とても刺激的です。
以上はコロナ禍での私の新しいチャレンジですが、「第九」は私の永遠の課題なので、練習開始の折には、皆さんとともに精進して、少しでもレベルアップできるよう頑張るつもりです。
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