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執筆者の写真第九in市川

『今、私と音楽のすべて』

はじめまして。

ピアニストの下出悠生です。

私は小さい頃からピアノが好きで、記憶では自由に好きなように弾いていました。

本気でピアノと向き合っていこう、と本能的に決断したのは中学2年生頃。けれど、それでは遅かったのです。

音大の友達や憧れの方々は、小さい頃から練習やコンクール漬けで、真剣に、ピアノと苦楽を共にして生きてきたことを知りました。私も、なんとか追いつきたくて、もっと理想に近づきたくて、無我夢中で勉強してきました。そして時が過ぎれば不思議と、音楽がいろいろな方向から好きだという気持ちが増していました。

例えば、ベートーヴェンは気難しくて激しくて、私はとっつきにくい作曲家のように感じていましたが、それでも、ベートーヴェンの生涯についての勉強をしたり、彼が一生をかけて作ったピアノソナタを勉強していくうちに、今では大好きな作曲家の一人になりました。

ベートーヴェンは、気難しく、激しい性格であることに間違いはありません。その性格のせいで、音楽家として絶対的に必要な聴覚を失いつつあることを、彼は周囲に打ち明けることができなかったのです。人間関係を避け、孤独に生きることがどれほど苦しかったのだろうと、私たちには想像もつきません。

そして自らの命を絶とうとしたとき、芸術が彼を引き止めたのです。自分にはやるべきことがあると。

芸術を心から愛し、どんな困難にも立ち向かおうとした彼の心と姿に、私は本当に感動しました。

そういった彼にしか無い才能と生き様から、本当に素晴らしい音楽が生まれています。

幼い頃に父親から受けた酷い強制、自らの意図に反した生き方に対するやるせなさと哀しさ、多くの病気との闘い、しかしその背景にある穏やかさ、静けさ、そして幻想。

ピアノソナタに当てはめてみると、第1楽章ではいわゆるベートーヴェンらしい音楽が多くあります。それに続く第2楽章の緩徐楽章はどうでしょうか。例えば「悲愴」や「月光」「熱情」などの第2楽章。それは彼の心の中の優しさ、寂しさ、苦しみ、希望の光、そして自然への愛…。

人間関係で苦悩したベートーヴェンは、自然をとても愛していました。

自然の世界には、人間の世界にはあまり無い、独特の穏やかな時間と幻想と色、景色、喜びなどたくさんの表情があると思います。そんな情景が浮かんでくる音楽が彼のピアノソナタには多くあります。

私も、自然や、空の雲や色彩などがとても好きです。ベートーヴェンの、自分を上手く人に伝えられなくて悩んでしまったりする気持ちにも、私は少なからず共感できます…。

もちろん、他の作曲家や憧れの演奏家、諸先生方など…音楽に関係する尊敬する全ての方々が、私に感動と力を与えてくれています。

今はそういう、いろいろな「何か」を奏でられるようになりたいと思っています。それを誰かに聴いてもらいたい、そんな希望をもってピアノと向き合う日々ですが、なかなか上手くいくわけもなく、「やっぱり私なんかダメだ…」と嘆いてしまう時がたくさんあって苦しいです。

けれど、そんな小さな自分を受け入れながら、どんな道のりになるのかわからないながらも、自分なりに、どうしても向かっていきたい希望に、諦めずに近づいていけるよう、これからも努力し続け、大好きな音楽、ピアノと共に生きていきたいと思っています。


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